ボトルに入った虫の糞の写真

それは茶の秘境。原料は虫の「糞」それだけ。

虫秘茶、それは虫と植物がつくり出した、未だ見ぬ茶の秘境。
素材となるのは、植物の葉を食べた蛾の幼虫の“糞”。
虫秘茶はそれぞれ数十万種ともいわれる、
虫と植物の掛け合わせによって生み出されます。
葉特有の香りを強く引き出すものから、
滋味深い味わいに特長のあるもの、予想だにしない色を発するものまで。
その神秘的なメカニズムも、虫が引き出す味や香りの正体も、
未だ多くがベールに包まれています。
虫秘茶という未開の地に、いま、足を踏み入れる。

虫秘茶
虫秘茶をすすろうとしている女性の写真

About “Chu-hi-cha”

虫秘茶とは、植物の葉を食べた蛾の幼虫(いわゆるイモムシ・毛虫)の“糞”をお茶にしたもの。こう言うと驚く方も多いかもしれませんが、“糞”とは葉が虫の体内で消化(=発酵)されて出てきたもの。実は一般的な中国茶や紅茶と似た原理をたどっています。虫秘茶の香りや味は、掛け合わせる植物と虫の種類により劇的に変化します。植物の持つ香りが強く引き出されるもの、もととなる植物からは想像もつかない香味をもつもの、どこかで覚えのあるような味がするもの、これまでのお茶にはないまったく新しい味をもつものなど様々です。

  1. 虫の腸内で微生物発酵が起き、葉が変質するイメージ図

    fig. 1.

    虫の腸内で発酵が起き、葉が変質する

  2. 虫と植物の組み合わせのイメージ図

    fig. 2.

    虫と植物の組み合わせによって可能性は無限

茶器が並べられた落ち着いた室内の写真

Sustainability

虫秘茶が描く生態系のイメージ図

fig. 3.

虫秘茶が描く生態系

1.未利用資源の利活用

一説には地球上に植物は27万種、昆虫は蛾の仲間だけで16万種いると言われています。これらの多様性を資源として捉えたとき、ほとんどが「未利用な資源」です。特に、多様で独創的な機能を持つ昆虫は未開の宝庫と言えます。虫秘茶には、そうした自然のポテンシャルを掘り起こす力があります。時には雑草とされる植物や、厄介者と呼ばれる蛾の幼虫にもスポットを当て、美味しいお茶として魅力を引き出すことができるのが虫秘茶の面白さであり醍醐味です。昆虫や植物の多様性を虫秘茶として表現することで自然の新たな活用を模索し、それがまわりまわって人間社会の持続・発展に繋がると信じています。

2.地域×虫秘茶

虫秘茶の多様性は、全国の地域の風土とも掛け合わされます。日本には、気候や地理的な要因にさらに地域の農産業により作り出された生態系を加えた、極めて多様な生態系が存在します。虫秘茶は植物と昆虫の掛け合わせから生まれるので、日本各地域で土地固有の生態系を反映した莫大な数の虫秘茶が生まれます。これら地方に根付く自然の魅力を虫秘茶として表現し、見て、香って、味わって楽しむことができればどんなに素敵なことでしょう。お茶を飲みながら地方の自然に思いを馳せる、そんな時間を虫秘茶は提供します。

3.新たな産業の創出

私たちは虫秘茶を通して新たな産業の創出を目指します。虫秘茶は、地方に眠る自然資源を活用し、その地域固有の魅力を引き出すことのできる商品。地方創生の糸口になると考えています。虫秘茶は既存の農産業や林業と組み合わせることで持続的な産業を可能にします。例えば果樹栽培農家で剪定される不要な枝葉。これらを虫の餌にして、虫秘茶が生産できます。虫秘茶は虫かごの中で生産できますから、畑の傍らで省スペースかつ軽作業で農家の副業として導入することができます。これまでただ不要になっていたばかりか、農家の負担にすらなっていた葉を活用して虫秘茶を生産することで、資源の効率的で持続的な活用を実現します。

シャーレに入った数種類の虫の糞がテーブルに並ぶ写真
Future vision

様々な魅力を兼ね備えた虫秘茶。その可能性はお茶の範囲にとどまりません。例えば植物由来の華やかな香りはアルコール飲料とも親和性が高く、ジンやリキュールへの展開が想像されます。また、料理や菓子の素材としても十分なポテンシャルを感じます。香りをうまく抽出すればフレグランスとしても活用できるはずです。虫の糞が秘める可能性は計り知れず、今後多領域の方々の知見をお借りしながら、展開を模索していきます。

シャーレに入った数種類の糞と茶器が並んでいる写真
急須で虫秘茶を茶器に注ぐシーンの写真
虫秘茶をすする女性の写真
茶器に注がれた虫秘茶の写真

Profile

白衣を着て森の中で佇む丸岡毅の写真

Tsuyoshi MARUOKA

丸岡 毅

Researcher研究者

1996年生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程。専門は化学生態学。研究室の先輩に影響され、昆虫愛(主にガ類)に目覚める。ここ数年は毎昼・毎夜のように“ガ”を探す日々で、生活が虫一色に。ある日、ガの幼虫のフンが美味しいお茶となることを発見し、これまでに50種類以上の昆虫のフンを試飲。博士課程でガの幼虫のフンを研究し、フンのスペシャリストを目指す。